麻酔 74巻1号 (2025年1月発行)

←前の号

選択した文献の文献概要を表示する書誌情報をダウンロードする

すべて選択

巻頭言

能登半島地震を経験して谷口　巧 74巻1号 , 2025年1月 , pp.1-1

PDF(148KB)

有料閲覧

特集　睡眠の科学：睡眠と麻酔に関する理解の深化と臨床展望

緒言とまとめ内田　寛治 74巻1号 , 2025年1月 , pp.2-4

PDF(511KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　麻酔科医は，日々，患者に薬物を投与して全身麻酔状態をもたらす。その間，患者は意識を消失し，“眠っている” ように見える。患者への説明も全身麻酔下に入ることを，しばしば “眠る” と表現する。しかし，睡眠と麻酔状態の研究が進み，理解が深まるにつれ，その違いも徐々に明らかになりつつある。特に睡眠に関する知見は近年増加し，科学的に説明される領域が増えたことで注目度も高い。睡眠が重症患者の予後に与える影響も指摘されている。ほとんどの臨床医は，集中治療室（intensive care unit：ICU）滞在中の患者は睡眠の質が悪いと認識しており，またそれがせん妄発症の増加や，ICU滞在期間の延長，理学療法への不参加，人工呼吸離脱の遅れなどと関連するとの臨床的認識を持っている^1）。睡眠についての正しい理解が深まるとともに，診療に生かされる時代に入りつつある。

睡眠と麻酔は同じなのか？　睡眠医学の知見をもとに河合　真 74巻1号 , 2025年1月 , pp.5-9

PDF(696KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　「睡眠と麻酔は同じか？」という問いに対しては，「もちろん違う」と答えざるを得ない。睡眠は生理的な身体の現象であり，本来は薬物を必要としない。概日リズムや睡眠の恒常性（覚醒している時間に比例して眠気が増大し眠りに落ちやすいこと）によってコントロールされており，他者が強制的に睡眠を生じさせることはできない。一方，麻酔は麻酔薬や鎮静薬の作用によってもたらされる人為的な現象であり，生理的な睡眠とは根本的に異なる。睡眠と麻酔の違いは広く認識されており，多くの専門家がこの点に同意している。しかし，睡眠と麻酔にはいくつかの共通点が存在することも事実である。本論文では，睡眠医学の観点から，これらの共通点について詳述し，「麻酔と睡眠の境界領域」に焦点を当てて論じたいと考える。このようなアプローチにより，睡眠医学が他の領域と交わりながら発展してきた経緯を踏まえ，新たな視点からの理解を深めることが可能となるであろう。

　まず，睡眠と麻酔の基本的な違いについて再確認する。睡眠は，自然に生じる生理的なプロセスであり，主に脳内の化学物質と神経活動によって調節されている。これに対して，麻酔は外部から投与される薬物によって引き起こされる人為的な現象であり，神経活動を抑制し，意識を喪失させることで，手術などの医療行為を可能にする。共通点について論じるにあたり，いくつかの観点が重要である。まず，睡眠と麻酔の両方が脳の特定の領域に影響を与え，意識の変容を引き起こす点である。例えば，両者ともに脳の活動を抑制し，意識レベルを低下させる。このため，脳波パターンや脳機能の変化において，類似した現象が観察される。

　さて，医学を学んだ人間にとって麻酔と睡眠は上記のような「生理的か？　人為的か？」という理由で医学部の授業などでは，一緒に議論することすらないと思う。ところが，非医療従事者にとってみれば，麻酔と睡眠は似ている。その根拠は麻酔を施行されている人や眠っている人を外部から見て観察すること，もう一つは自分が麻酔や睡眠を経験することに基づいている。この非医療従事者の視点というのはわれわれの固定概念を乗り越える示唆に富んでおり，この境界領域のことを語るうえで大切と考える。

マウスにおけるREM・NREM睡眠制御と線虫の睡眠から見る新たな睡眠制御メカニズム千葉　隆之介 , 林　直子 , 林　悠 74巻1号 , 2025年1月 , pp.10-18

PDF(1432KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　われわれが人生の約1/3を費やす「睡眠」は生きるうえで重要であることを疑う人はいないであろう。実際に，睡眠はヒトの健康に深く関係しており，睡眠不足が心血管系の疾患や精神疾患などのリスクを増大させる可能性がある^1）2）。睡眠研究が本格的に始まったのは20世紀に入ってからであるが，それ以降ラットの断眠実験^3）を通じて，動物において睡眠が生存に不可欠であるとの見方が一般的となっている。また，今や睡眠学の対象は脳が複雑に発達した哺乳類や鳥類にとどまらず，無脊椎動物を含むさまざまな生物にも門戸が開かれている。例えば，線虫（Caenorhabditis elegans）では哺乳類の睡眠制御遺伝子と相同な遺伝子で睡眠が制御されていたり^4），中枢神経系をもたないクラゲの一種でも睡眠が見られたりすることが報告されている^5）。このように，睡眠は動物門の垣根を越えて観察される生理状態であり，生存に重要であると考えられるが，「なぜ動物は眠るのか」といった根本的な問いに対する明確な答えは現在も見出されていない。

　本論文では，著者らのマウス，線虫における睡眠研究を中心に紹介するとともに，睡眠についての重要性や新知見について触れていく。

睡眠と麻酔は同じなのか？　生理学的見地から萩平　哲 74巻1号 , 2025年1月 , pp.19-29

PDF(1294KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　睡眠と麻酔はどちらも無意識，無記憶になること，深くなると刺激にも反応しなくなることなど確かに似ているところも多いが，麻酔は麻酔薬により人為的に誘導された状態であり，生理的な睡眠とは明らかに異なる。ここでは，睡眠の概要や現在知られている睡眠の分子メカニズムに関して解説し，そのあとに麻酔との類似点や相違点などについて解説する。なおここで示す脳波波形はいずれもbispectral index（BIS）モニターから得た脳波波形であり，前頭導出の脳波波形である。

新しい睡眠時無呼吸症の治療戦略―舌下神経電気刺激療法― 中島　逸男 74巻1号 , 2025年1月 , pp.30-36

PDF(1910KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　1976年に「睡眠時無呼吸症候群」が定義^1）されてからさまざまな研究を通して閉塞性睡眠時無呼吸症（obstructive sleep apnea：OSA）の病態の理解も深まり，大きないびき音や夜間の無呼吸が病的な現象であることは広く知られるようになった。

　OSAに対する外科的アプローチは1961年に池松がいびきに対する咽頭腔拡張術を開発し^2），1981年にFujitaら^3）が池松の術式をもとに口蓋垂口蓋咽頭形成術（uvulo-palato-pharyngo-plasty：UPPP）を報告したことで世界的に広まったことは周知のとおりである。その後，咽頭腔をより拡大するUPPP変法の術式の開発や，咽頭腔の術後瘢痕拘縮を予防する，より低侵襲な術式へ変遷している。一方で，持続陽圧換気（continuous positive airway pressure：CPAP）の不耐・不忍容な中等症から重症OSAにおける二次的な治療法の新規治療の一つとして舌下神経刺激療法（hypoglossal nerve stimulation：HNSもしくはupper airway stimulation：UAS）が導入され^4），わが国では2018年に薬事承認を受け，2021年に保険収載された。

ICUでの重症患者の睡眠増山　智之 74巻1号 , 2025年1月 , pp.37-45

PDF(1214KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　現代社会では睡眠不足が蔓延しており，本誌の読者であれば睡眠不足による弊害は身をもって経験しているであろう。実際に，短期的な睡眠不足であっても，認知，覚醒，気分，血糖コントロール，心血管系，免疫系機能，呼吸機能などに悪影響を及ぼすことが知られている^1）。もちろん，集中治療室（intensive care unit：ICU）患者であってもその影響から免れることはできない。むしろ，ICUという環境，重症病態，集中治療やケアといったICU患者だからこそ受ける悪い影響により睡眠障害を呈しやすく，ICU患者ならではの不良な転帰をたどることもある。だからといって，眠れないなら鎮静をしておけばよいわけではない。睡眠には脳波で判別される睡眠段階があり，睡眠と鎮静は別の状態と考えておいたほうがよい。

　ところで，ICU患者において睡眠障害の定義はあるのだろうか。また，睡眠段階の評価方法は外来患者と同様なのだろうか。そもそもICUで睡眠段階は測れるのだろうか。さらに，睡眠障害への対処法はあるのだろうか。本論文ではこういったICUにおける重症患者の睡眠の疑問についてまとめる。

症例報告

心臓手術後に術操作に伴う右冠動脈閉塞が判明した2症例古市　結富子 , 清水　淳 74巻1号 , 2025年1月 , pp.46-51

PDF(2077KB)

有料閲覧

文献概要を表示

要旨

　心臓手術後右冠動脈閉塞が判明した2症例を経験した。原因は三尖弁輪形成術またはメイズ手術と考えられた。症例1はカテーテル治療を，症例2は保存的経過観察を行った。心臓手術に伴う右冠動脈閉塞はまれであるが，人工心肺離脱困難や不安定な循環動態の一因として念頭に置く必要がある。

抗NMDA受容体脳炎に悪性症候群を合併した卵巣腫瘍摘出術の周術期経験押田　達朗 , 横溝　那々 , 谷口　巧 74巻1号 , 2025年1月 , pp.52-55

PDF(717KB)

有料閲覧

文献概要を表示

要旨

　抗NMDA受容体脳炎は多彩な症状を呈する。腫瘍を随伴することもあり，腫瘍摘出は治療選択肢の一つである。今回われわれは悪性症候群を合併した腫瘍随伴の抗NMDA受容体脳炎に対し，各科と連携して早期に腫瘍摘出を行い，良好な転帰を得た症例を経験したので報告する。

--------------------

目次 74巻1号 , 2025年1月

PDF(106KB)

フリーアクセス

英文目次 74巻1号 , 2025年1月

PDF(128KB)

フリーアクセス

外国文献紹介 74巻1号 , 2025年1月 , pp.56-57

PDF(185KB)

フリーアクセス

投稿規定 74巻1号 , 2025年1月 , pp.58-63

PDF(658KB)

フリーアクセス

奥付 74巻1号 , 2025年1月 , pp.64-64

PDF(253KB)

フリーアクセス

定期購読申込みシート 74巻1号 , 2025年1月

PDF(287KB)

フリーアクセス

基本情報

麻酔
74巻1号
(2025年1月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0021-4892 克誠堂出版

お気に入り登録(雑誌)
お気に入り登録(号)
最新号をみる

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング(
1月27日～2月2日
)

第1位予期せぬ気管狭窄により換気不能･挿管不能(CVCI)に陥った1症例佐藤ゆかり,井浦晃,柴田晶カール,松本充弘,藤野裕士麻酔 70巻 2号 pp. 130-133 (2021年2月10日) 克誠堂出版
第2位 ICUでの重症患者の睡眠増山智之麻酔 74巻 1号 pp. 37-45 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第3位睡眠と麻酔は同じなのか？　生理学的見地から萩平哲麻酔 74巻 1号 pp. 19-29 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第4位睡眠と麻酔は同じなのか？　睡眠医学の知見をもとに河合真麻酔 74巻 1号 pp. 5-9 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第5位術後悪心・嘔吐の危険因子と予防・治療関博志麻酔 73巻 1号 pp. 27-36 (2024年1月10日) 克誠堂出版
第6位左室補助人工心臓植え込み術および心臓移植術と麻酔假屋太郎麻酔 73巻 11号 pp. 763-771 (2024年11月10日) 克誠堂出版
第7位緒言とまとめ内田寛治麻酔 74巻 1号 pp. 2-4 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第8位マウスにおけるREM・NREM睡眠制御と線虫の睡眠から見る新たな睡眠制御メカニズム千葉隆之介,林直子,林悠麻酔 74巻 1号 pp. 10-18 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第9位新しい睡眠時無呼吸症の治療戦略―舌下神経電気刺激療法― 中島逸男麻酔 74巻 1号 pp. 30-36 (2025年1月10日) 克誠堂出版
第10位ミトコンドリア脳筋症患者に対する心臓手術の麻酔経験河野優,水谷吉宏,宗宮奈美恵,横山幸代,堀田蘭,富田彰麻酔 70巻 4号 pp. 397-401 (2021年4月10日) 克誠堂出版

麻酔 74巻1号 (2025年1月発行)

巻頭言

特集 睡眠の科学：睡眠と麻酔に関する理解の深化と臨床展望

症例報告

--------------------

基本情報

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング( 1月27日～2月2日)

特集　睡眠の科学：睡眠と麻酔に関する理解の深化と臨床展望

文献閲覧数ランキング(
1月27日～2月2日
)